彼と彼女-思い出したこと-(3)


2000年2月27日(日) 晴れ & 雨




それは3月の雪がとけそうで、まだ残ってる、うす明るい日でした。

その日の授業が終わって帰る途中、私とUは一緒になりました。

U:「恵子と話してると、日本っていい国だなぁ、って思う」

私:「うん、いい国だと思う。だけど、みんな自分の国のことはよく思ってるんじゃない?Uだってそうでしょ?...逆かな、自分の国のことをよく思わない人もたくさんいるよね」

U:「でも恵子、私の言ってる意味は、そういう抽象的なことじゃなくて、もっと具体的なことなの。日本は、留学したい人はみんな留学できるんでしょ?」

私:「うーーん、費用がないとできないけどね。でも、社会人になればつくることのできない額じゃないけど。それから、やっぱりある程度、まわりを説得しなくちゃいけないかな。何かあったとき、日本にいる人は大きな助けになるし、やっぱり完全に一人で実行するのは難しいと思う」

U:「韓国はそれ以前なんだ。政府の力がつよい。どんなにお金があっても、政府がNoって言ったら出られない。それに、送金してもらうときなんてすごくたいへんなの。何に使うか全部、提出して、やっと韓国から送金できる、って感じ」

私:「ふうん、たいへんなのね。」

U:「それに、結婚に対する考え方も。私の年だと遅すぎるって誰もが思ってる」

私:「どうしたの?最近、結婚の話ばかりしてるね。なにか困ったことがあるの?ここはアメリカなんだから、周りがなにを言っても気にしない、ってことはできないの?」

U:「実はもう、私、抵抗できないの、親に。だから、Yに『親に会って』って言ってるんだけど、ぜんぜん聞いてくれないの」

私:「Yは、『俺の彼女は自分を理解してる』ってのろけてたよ、この前」

U:「うん、そのつもりだった。でも...」

私:「そうだよね、だけど、あきらめちゃだめ。あきらめたら、何もはじまらないものね」

U「うん...」


そして、Uは突然、泣き出しました。

私は、言葉もなく、ただ黙って歩いていました。

U:「恵子、私は日本人に生まれたかった。目の色も、髪も、背だって、顔だって、私たちは同じなのに、私はどうして日本語をしゃべれないの?」

私:「...」


Uは、ずっと泣いていました。アパートに着いて、私たちはただ、立ち止まっていました。泣いているUにかけてあげる言葉もないまま、ただぼんやりと、そういえば別の韓国人の女の子が「結婚」について親が厳しくてつらい、と言っていたのを思い出しながら、ただ黙っていました。

そして、30分くらいたって、Uは、「バイバイ」と一言だけ言って帰っていきました。

でも、それが、私とUの最後の会話でした。次の日、Uは学校に来ませんでした。










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