彼と彼女-思い出したこと-(1)


2000年2月2日(水) 晴れ


これは、ニューヨーク州に留学中に出会った二人のお話です。事実だけを書き出しても、物語にできそうな出来事。でも、プライベートなことなので、書いていいのか迷っていました。だけどもう、2度と会うことのない二人。ここに書き残しておこうと思います。

*****

留学してきた最初の年の8月の終わりに、語学学校のクラスで二人に出会いました。彼の名はY、彼女の名はU、ふたりとも韓国から来た留学生です。Yは私と同じ年の(日本やアメリカ式に数えて)29歳、Uは私たちより5歳年下。

当時、私は、英語はまったくできないけど、18,19歳くらいの他の留学生と肩を並べての授業は苦痛なものでした。彼らの知識と、一度社会に出たYや私の知識や見解は比べものになりません。こんなところで何をやっているんだ、というあせりと、それなのに英語ができない苦痛で、私たちは何かを共有していました。

私とYは、いつも隣に座って、先生が何かテーマを出すごとにひそひそとジョークを飛ばしていました。先生が「仕事って何か?」と聞くと、他の留学生たちが「生きがい」とか「お金を稼ぐためのもの」と言っているときに、私たちは「プライド」と小声で言い合ったり、「苦痛とは?」と聞くと「怪我をしたとき」「失恋したとき」と回りが言う中で「苦痛とは何かと考えるとき」と言い合ったり、「自殺は?」「してはいけないこと」「しょうがないこと」と言う中、私たちは「一番美しい瞬間」「その人にとって」「世界中で」「この教室の世界で」「私たちにとって」「イコール世界中で」というように、少し皮肉を込めて笑いあっていました。

あるときから、Uが私たちの仲間に加わるようになり、でもUは一生懸命私たちに、というよりYについていこうとしている感じで、私たち3人の中では、からかわれ役でした。でも、彼女も負けてはいません。YとUのやりとりを聞いて、私はいつも隣で笑っていました。

ある日、授業が終わって帰る途中、私は「あれ?」と思って、

「ねね、二人はカップルなの?」と聞いてみました。

「だ〜れが!」「どうしてこんなのと!」と口々に言うので、

「なんだ、違うんだ。でもね、なんだか二人は雰囲気が似てるんだよね、気がついてないかもしれないけど。これって韓国人の特徴なのかな?私は二人が最初の韓国人の友達だからわからないけど」

と言ったまま、私は忘れてしまいました。

私とUは同じアパートに住んでいました。学校へ行くとき、ときどき一緒になりました。

ある10月の晴れた日、Uは私に聞きました。

「恵子はボーイフレンドいないの?」

「いないわ」

「どうして?欲しいと思わないの?」

「うーん、欲しいけど...今は積極的に欲しいとは思わないかな。私って情熱的だから(笑)、ボーイフレンドができたら他が見えなくなっちゃうもの。今は私にとって大切な時期なの」

「ふうん」

「Uはどうなの?」

「私?いない...うそ、いるんだけど、彼は大人で...」

「Uだって大人じゃない。あなたって大人びてるところがあると思う。彼は韓国にいるの?」

「...うん」

「じゃあ、つらいね」

「...うん」

「Uの好きな人って、どんな人?」

「私より年上だけど、頑固で、一度思い込んだら突っ走るタイプ。でもね、夢を持ってるの。頭がいいんだ。子供みたいなところがある。いっつもふざけてるの」

「きゃはははは!ねね、それって、Yそっくりよ!韓国人って、みんなそうなの?私、好きだなぁ、そういう人たち...」

「ううん、他の韓国人とはぜんぜん違う、頭がいいのに、親とは喧嘩しちゃうし、ぜんぜん世渡りがうまくないんだもん」

「でもね、きっと性格いいよ、その人。だって、Uを選んだんだもんね!」


秋の、やわらかい朝日が反射して、私にはUの顔が見えませんでした。突然、Uは、

「恵子!...恵子ってどうしてそんなに賢いの?」

「え?私?賢くないよ、ふふ、どちらかというと、YやUの彼のタイプじゃないかなぁ。世渡りへただし」

「恵子、私の彼は、Yなの、恵子だけよ、気がついたの!」











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