1998年6月5日(金)
コース: ルート80→ルート101
通った州: ユタ州、ネバダ州、カリフォルニア州
走った距離: 666.9マイル(1067.04キロ)
料金所: 2ドル(カリフォルニア州)
ガス代: 42.02ドル(5462円)
(1ドル=130円, 1マイル=1.6キロ)
夕べの恐ろしさからもすっかり立ち直り、元気よく出発。
朝、いつものようにガソリンを入れていたら、隣の老夫婦が「ガソリンの入れ方を教えて欲しい」と言うので、説明しました。でもわからなかったようなので、私が全部やってあげると喜んでくれました。
この人たちはイギリスから来たようです。詳しいことを聞きたかったのですが、「早く出発したい」と、気持ちがせいていて、挨拶もそこそこで、私は車にのってしまいました。
「英語をしゃべる人に私が教えてあげるなんて、私もずいぶんアメリカ人らしくなってきたなぁ」
と、自分を誇らしく思ってしまいました(^^;
今日は、岩の連続。
たぶん、砂漠もあったのでしょうが、雨季だったのか草が茂っていて、砂漠という感じはしませんでした。
ユタ州とネバダ州は、砂漠とカジノが売り物なのでしょうか。ところどころに見える看板では、モデルは皆、カーボーイハットをかぶっています。
岩は、最初は小さいもの、そして少しずつ大きくなっていきます。
そして、とうとうカリフォルニアの手前で、山そのものが岩でできているくらい大きな岩が現われ始めました。
それらは顔に見えるので、下調べなどしなかった私は
「4人の大統領の顔を岩に掘っているのは、この中にあるのかもしれない」
と、一生懸命探してしまいました。でも、見つけることはできませんでした。(そうだよね、ここじゃないものね(^^;)
この4日間、ほとんど、すいている道を走ってきました。多少の渋滞はあってもすぐ抜けます。大きなトラックに囲まれる以外は、ほとんど私と2、3台の車が見えるだけのドライブでした。
ところが、カリフォルニアに近くなってきたせいか、車がどんどん多くなってきました。
そして、山道でカーブが多くなってきたので、あまりスピードが出せません。ときどき、周りの車のスピードに合わせることができずに、急ブレーキをかけたり、反対に後ろに詰まっているのに気がついて、スピードをあげたりしなくてはならなくなりました。
今までずっと、風景だけを楽しんできました。だけど、とうとうそれができなくなってしまいました。
途中、ガソリンを入れると、今までのところでは必ずと言っていいほど、誰かが話かけてきたのに、ここではだ〜れも話しかけてはきませんでした。
...ここから目的地のカリフォルニアまで、もう周りを気にしないで走ることはできないんだ...
そう思ったら、ちょっと暗い気持ちになりました。
ちょうど、東京ディズニーランドのジャングルクルーズで、いろんな冒険を楽しんだあと、ガイドの人の、「さて、ここから先はいちばん恐ろしいところ、そう、人間の文明社会に入っていきます」というフレーズを思い出し、頭の中からそのフレーズがずっと離れなくなりました。
「そんなに急がなくてもいいや」
早く行きたいという気持ちはなくなり、スピードを気にすることはなくなりました。
カリフォルニアの入り口に入りました。
ここで、フルーツを持っているかのチェックをされました。カリフォルニアはフルーツの州なので、フルーツの病気を移されると困るから、そういうチェックをしているようです。
私は、ニューヨークでフルーツをたくさん買っていたけど、食べながら来たので、りんごがひとつ、残っていただけでした。
...りんごはニューヨーク(マンハッタン)の象徴。たくさんあったりんごがたったひとつになった...
道は、岩の山はなくなり、普通の、だけどまばらな木々の生えている山場を通り抜けます。
車がものすごく多くなってきました。
...そういえば、カリフォルニアの人はニューヨークを嫌っているって聞いたことがある。ニューヨークのナンバープレートだから気をつけなくっちゃ...
夕方近くになって、最後のガソリンを入れました。
ガソリンを入れ終わると、クレジットカードで支払いをする場合は、金額がでて、そこで Yes か No か聞いてきます。
私が、Yes を押そうとして、はっと気がついたのは、金額が出たのではなく、
「洗車しますか?」
...この州では、ガソリンを入れると洗車を聞いてくるのか、間違っていつものように Yes を押したら、洗車のお金も払わなくちゃいけないってわけね。なんて商売根性!気をつけなくっちゃ...
サブウェイというサンドイッチやさんで、最後の食事。
「サラダをください」
でてきたものは、サンドイッチ...
「ちがう、ちがう、私はサラダが食べたいの!」
すると、隣の店員が、
「こいつはスペイン語しかしゃべれないんだ。サラダでいいの?」
と、たどたどしい英語で聞いてきます。
「はい...」
...ここは英語も通じないの?...
道はすでに渋滞。何車線もあって、どの車線にすればいいのかよくわかりません。へたすると、ルート101にはいれなくなっちゃうから。だからときどき、わけもなく、車線変更をしました。
「パッシングされた!ちゃんとウィンカー出したのに」
...そうか、ニューヨークナンバーだからね...
もう景色を楽しむことなどできず、緊張しながら、ルート80からはずれてしまわないように、ルート101にきちんと入れるように、それだけを気にして走りました。
途中で料金所。
そして、とうとう目的地にたどりつきました。
公衆電話から電話。
でもどうしてもかかりません。
...電話まで私を歓迎してくれないの?ニューヨークのやり方と違うのね...
しょうがないので、オペレーターを呼び出しました。
工事中の一角に車を停めていると、遠くから男の人が、私に向かって何かを叫んでいます。
「あの人、電話かけてるときから叫んでたな。きっと、ニューヨークナンバーをからかおうとしているんだ。無視しよう。」
男の人が近づいてきます。
「どうしてニューヨークから来ただけでこんな目に合わなくちゃいけないの?」
私は車を降りました。
車のドアを思いっきり力を入れて閉じて、
"Shut up!!!" (「だまれ!!!!」)
と、男の人を睨みつけました。
反応があったら、車に乗って逃げるつもりで扉に手をかけたまま、そのまま睨み続けました。
すると、男の人は笑いながら行ってしまいました。
私はものすごくみじめな気持ちになりました。
...やっとたどり着いたカリフォルニア。ずっとずっと来たかったところ...
けれども、これから先の私の生活を暗示しているかのように感じられたこのみじめな気持ちは、私の気持ちに暗い暗い影を落としていきました。
この旅が、物語だったなら、ちょっとドキドキして(1日め)、きれいで楽しくて(2、3日め)、クライマックス(4日め)があって、夢と希望を持ってカリフォルニアに入りました...そういう風に続くでしょう?
だけど、私がカリフォルニアに着いて、感じたこと。
...これは現実なんだ。私はとり返しのつかないことをしたかもしれない...
((注意))
* ニューヨークにも英語はしゃべらなくてスペイン語だけ、という人はたくさんいます。
* カリフォルニアでは、ガソリンを満タンにすると、無料で洗車をしてくれるところがあります。私が最初にとまったスタンドもそうだったようです。
* 公衆電話のかけ方は、カリフォルニアもニューヨークも同じでした。私の使った電話がたまたま壊れていたようです。
* 男の人が叫んでいたのは、私が工事中のところに入ってしまったからで、注意してくれていただけのようです。
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